和歌と俳句

松本たかし

鳴神や暗くなりつつ能最中

書屋あり実梅落つ音筆擱く音

一稿を稍に書きつぎ実梅落つ

日覆に針のやうなる洩れ日かな

そくばくのの黄もあり多摩河原

昼顔の小さなる輪や広野中

昼顔に認めし紅のさみしさよ

昼顔の花びら斬つて草一葉

昼顔の野にうかみけり梅雨茜

早苗とる一人きりなる音をたて

十薬の花に涼むや楽屋裏

月見草咲くと襷や夕炊ぎ

古絵馬に四萬六千日来る

四萬六千日の門前の蚊火の宿

泳ぎ子や光の中に一人づつ

虹の中を人歩き来る青田かな

泳ぎ子の投げかけ衣葛の上

緑蔭や蝶明らかに人幽か

緑蔭の広きに道の岐れをり

緑蔭の深きに憩ふ久しさよ

薫風にゆだねしさまに水馬

椎の花古葉まじりに散り敷きし

網小屋の戸に昼顔の這入りかけ

山清水ささやくままに聞き入りぬ

打ち水の水の飛び込む大芭蕉