和歌と俳句

緑陰

緑陰や人の時計をのぞき去る 虚子

もとめ得て緑蔭くらきベンチかな 風生

緑蔭やうすばかげろふ漣を追ふ 蛇笏

緑蔭を詩なくあゆめり悔いもなく 辰之助

緑蔭の葉漏れ日を掌にすくひみる 辰之助

緑蔭に昆虫のあゆみ瞶むるを 辰之助

緑蔭にすぎつゝ詩なく肌の冷ゆ 辰之助

肌冷えの緑蔭を駆け野にし出づ 辰之助

緑蔭に眼帯の子をけふも見し 麦南

緑蔭を出れば明るし芥子は実に 虚子

緑蔭や矢を獲ては鳴る白き的 しづの女

緑蔭やリラと呼ばれて行ける犬 汀女

緑蔭に釣りゐる子等に鳰遠し 立子

緑蔭に三人老婆わらへりき 三鬼

緑蔭に吾子の帰りを跼に待ち 立子

緑蔭や白鳥遠く去りてあり 花蓑

海あれて緑陰の椅子部屋にある 多佳子

緑蔭にゐて靴磨あぶれたり 鷹女

緑蔭やいねたらぬ眼をつぶりゆく 林火

緑蔭にかくるゝ如くゐてひろし 花蓑

緑蔭に黒猫の目のかつと金 茅舎

緑陰と一幹を去る妙義さらば 草田男

緑蔭を出て挙手の禮きびしかり 汀女

緑蔭のなほ卓移すべく広く 汀女

緑蔭や蝶明らかに人幽か たかし

緑蔭の広きに道の岐れをり たかし

緑蔭の深きに憩ふ久しさよ たかし

緑蔭の冬の日に似るレストラン 杞陽

緑蔭の皆があち向く水光る 汀女

緑蔭に経ちし時計をかざし見し 汀女

緑蔭に七宝の蝶紋をかくさず 茅舎

緑蔭にわたる大幹やはらかに 汀女

母子睦む緑蔭を過ぎ鶴の前 信子

緑蔭に徹夜行軍の身を倒す 遷子

見出でたる緑蔭たゞに見て過ぐる 遷子

はじめより緑陰にあり他へゆかず たかし

緑蔭に染まるばかりに歩くなり 立子

緑蔭に主鷺追ふ手をあげて 虚子

緑蔭の赤子の欠伸母にうつりぬ 林火

緑蔭に合はす時計の遅れゐぬ 林火