和歌と俳句

西東三鬼

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夏痩せて少年魚をのみゑがく

青蚊帳に少年と魚の絵と青き

熱ひそかなり空中に蠅つるむ

熱さらず遠き花火は遠く咲け

算術の少年しのび泣ける夏

緑蔭に三人老婆わらへりき

ハルポマルクス神の糞より生れたり

夏暁の子供よ土に馬を描き

友はけさ死せり野良犬草を噛む

笑はざりしひと日の終り葡萄食ふ

葡萄あまししづかに友の死をいかる

別れきて栗焼く顔をほてらする

別れきて別れもたのしを食ふ

栗の皮プチプチつぶす別れ来ぬ

道化出でただにあゆめり子が笑ふ

道化師や大いに笑ふ馬より落ち

大辻司朗象の芸当みて笑ふ

暗き日の議事堂とわが白く立ち

議事堂へ風吹き煙草火がつかぬ

議事堂の絵のこの煙草高くなりぬ

水平線あるのみ青い北風

冬海へ体温計を振り又振り

ダグラス機冬天に消え微熱あり

顔つめたしにんにくの香の唾を吐き

黒き旗体温表に描きあそぶ