西東三鬼
王氏の窓旗日の街がどんよりと
編隊機天心の茶に漣立て
王氏歌ふ招魂祭の花火鳴れば
鯉幟王氏の窓に泳ぎ連れ
厖大なる王氏の昼寝端午の日
五月の夜王氏の女友鼻低き
祭典のよあけ雪嶺に眼を放つ
祭典のゆふべ烈風園を打つ
祭典の夜半にめざめて口渇く
誕生日あかつきの雷顔の上に
誕生日街の鏡のわが眉目
誕生日美しき女見ずて暮れぬ
昇降機しづかに 雷の夜を昇る
屋上の高き女体に雷光る
兵隊がゆくまつ黒い汽車に乗り
僧を乗せしづかに黒い艦が出る
黒雲を雷が裂く夜のをんな達
巨き百合なり冷房の中心に
冷房の時計時計の時おなじ
冷房にて銀貨と換ふる青林檎