和歌と俳句

飯田蛇笏

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眼の前に脱がれし下駄や日向ぼこ

閑談のふところにして寒卵

姫の貌まぼろしを追ふ神楽かな

日象に耶蘇降誕の茶のけむり

松過ぎや街はるばると葬車駆る

深山空寒明けし陽のわたりけり

お彼岸の鐘ききとむる樵夫かな

野祠やかげろふ上る二三尺

墓山のかげろう中に詣でけり

真澄なる苗田の水に鎌研げる

われを視る眼水色に今年猫

黝汐にのりて春趁ふ鴎かな

嵐ふく古城の花に津軽富士

覇王樹に卯の刻雨す五月かな

菖蒲ひく賤の子すでに乙女さび

遊船に陽は青々と灼けにけり

麦穂焼炎のはやりては舞ひにけり

冷え冷えと箸とるの酒肴かな

魂棚や草葉をひたす皿の水

うつくしく泉毒なるかな

青草をいつぱいつめしほたる籠

葛垂れて日あたる漣の水すまし

葉がくれに水蜜桃の臙脂かな

閑かさはあきつのくぐる樹叢かな

音のして夜風のこぼす零餘子かな

仰がるる鳶の破れ羽や秋の風