和歌と俳句

新涼

新涼や精進料理あきもする 虚子

新涼やはたとわすれし事一つ 石鼎

新涼や仏にともし奉る 虚子

新涼の俄に到る草廬かな 風生

新涼や青空見えて夕べなる 石鼎

新涼の沼にうつりて流れ雲 多佳子

新涼や道に出で立つわれひとり 石鼎

新涼の笹に生れて露ひとつ 石鼎

新涼の浪ひるがへり蜑が窓 秋櫻子

新涼や一輪ざしの白桔梗 みどり女

新涼の手拭浮けぬ洗面器 汀女

新涼の乳をふくむ兒と草刈女 蛇笏

新涼の土のあらはに黍穂垂る 蛇笏

新涼や二度の午寝も恣 石鼎

新涼や土器の火を袖がこひ 蛇笏

新涼や膳に上りしの魚 たかし

新涼や再び青き七変化 鳳作

新涼や立てば葉高き芋畑 立子

新涼の浅間晴れんとして蒼し かな女

新涼の小さき乳房をもつわれは 鷹女

新涼の書をよみ電車街に入る 波郷

新涼の書肆水うてり人のひま 波郷

新涼や百姓の子の東京に 波郷

新涼やわがなす用のはたとなく 汀女

新涼の千人針をつかまつる 汀女

新涼の剃刀触るゝ頬たかく 麦南

新涼の電車抛られしごと来る 友二

新涼の荒も好もしの宿 たかし

新涼や旅の夜もまた北枕 槐太

新涼の夜風障子の紙鳴らす 素逝

水菓子に新涼の灯の隈もなき 占魚

新涼や鳩の接吻日浴びそむ 波郷