和歌と俳句

三橋鷹女

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あはれ来て野には咏へり曼珠沙華

紫苑高し軍歌をうたふ母と子に

紫苑咲き戦場美談子と読める

みづひきに秋は泪ぞふり落つる

新涼の小さき乳房をもつわれは

ものの翳まぶたを去らずを病む

色鳥に女かなしびの眉を描く

山のお日瞼にあつし藤袴

秋雲は湧けり黒髪丈なせる

白しえんまこほろぎ鳴きひろごり

白しまひるは堪ふるさびしさに

萩打つてあきらめられずきのふけふ

萩こぼれ一日の業をわが終へぬ

萩こぼれ生計のそとに今ぞ佇てり

白し夜をねむらうとする努力

霧降れり夕べは白き萩の上に

の夜に堪へて化粧へり濃き化粧

しんしんと夜はかまつかの燃ゆるなり

きしきしときしきしとの玻璃を拭く

虫籠を守りをり機翼来り去り

ふた親のある身秋風ともに流れ

昏るる頬けたのあざは塗りつぶし

えぞ菊に平仮名を憶ひ出さうとする

鳴けば横顔征きし弟を