和歌と俳句

三橋鷹女

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白き消えて繃帯の山がある

咲けばこれの窓際に椅子を置き

あたたかい雨ですえんま蟋蟀です

コスモスの散りしきるとき醜のわれ

窓押せば霧流れ入るはかなし

四五本のけいとう燃えてゐる疲れ

秋痩せぬ赤のまんまの野にとほく

こぼる筆をとらで来し一年

にごりなき心にを咲かしめぬ

白くわが手の時計秒を刻む

秋燕のそらのはろかに瞳をほそめ

山ぶだう野面に酸ゆし秋燕

ひたすらに飯炊く燕帰る日も

美しきもののさみしさよ秋来たり

秋痩せぬ銀漢ひののへに明るく

秋痩せぬ椎大木は昔のまま

母に秋日はらから吾等寄り集ひ

山の一斉に赤し雷わたる

曼珠沙華濡るれば濡るる野の烏

秋雨に濡るるおのれと野烏か

烏烏秋の霖雨は野に荒し

真剣な貌が鉄打ち緋のカンナ

鉄を打つ一瞬カンナ黄に眩み