颱風の夜は紺青の絽の寝間着
颱風はいそぎんちやくの躍る闇
颱風の底ひ眼のなき魚が棲む
颱風に藻ははらわたのなき歎き
颱風は心をはろの海底へ
燈にむいて颱風の夜の眼を閉ぢぬ
カンナ散り孤独の日々を愉しめり
こんとんと秋は夜と日がわれに来る
甦りくるもののあり秋の日に
肉親をおもふはさみし秋の日に
肌白く透きて思索の秋となりぬ
紅葉雨鎧の武者のとほき世を
幻影は弓矢を負へり夕紅葉
薄紅葉恋人ならば烏帽子で来
この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉
カンナ秋体温あつく吾ぞ生くる
カンナ緋に黄に我が心境をゆるがすも
カンナあの紅食ひなばいのち灼け死なん
秋が来た思索のともし清浄と
信念は刻と移れり柿熟れぬ
柿熟るる肺腑がよごれゐる思ひ
秋日射し骨の髄まで射しとほし
秋草に大地沈みてゆくおもひ