和歌と俳句

三橋鷹女

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前垂に刀豆摘むや秋の雲

むくろじと知らで拾ひし木の実かな

さみしさの種無を食うべけり

さしそへて淋しき花の吾亦紅

秋来ぬとこころにおきし起居かな

みちのべの狗尾草も野分かな

たそがれて顔の真白き案山子かな

日に焼けて秋の野山を歩きけり

豆柿や真青き蔕をおのがじし

こぼれ穂にわが足触れてもたいなや

カンナ緋に黄に愛憎の文字をちらす

幻影は砕けよ雨の大カンナ

初嵐して人の機嫌はとれませぬ

萩の露ふかくてことば交されず

白日のカンナの彩に瞳つぶれぬ

緋に憑かれ黄には疲れて夕カンナ

熟れざくろ濃き朝霧を噛んでゐし

寄り添うてわれは釣らずよ鯊日和

おもひ濃くなりゆくばかり萩を去る

草市の草葉つめたく手に触りぬ

草の市をとこをみなの出て買ふも

莟より花の桔梗はさびしけれ

凡骨は野菊を踏んでゆきにけり