祭あはれ夕焼がさし月がさし
日日の照七月やふどし干す
閻王に西日さしこむ刻ながし
草刈に子どもいでたつわれもゆく
蓖麻は実に巷をゆきて糞す馬
たたづめる女人に蓖麻に月明り
地に一顆あをき榠櫨に幾日照雨
蓼の花さらにすずしく月夜風
新涼や旅の夜もまた北枕
姉がりに来て妻たのし茗荷汁
旅の夜の七夕竹を見る手摺
うちうみに土用波なし子河豚釣る
天の川風樹の歎きわれひとに
葛咲くやいたるところに切通
牡蠣の磯七夕竹を挿せりける
八月や牡蠣田の芦に雨ますぐ
三日月や輪講猿蓑を畢る
渓の岩蠅を点じて颱風期
せんだんの木のありやうの無月かな
洗ひたる障子美し木槲に
野稗の穂盾津に雲の下りにけり
添水見てひとり千早へ志す
雲ぬくし粟刈人もかすみつつ
鵙の居る微雨の枝ぶり橡ならし
夏に二度詣でし宮の椎拾ふ
鵙の贄露草のよく肥ゆるあり
風花の磯に出しとき降りをはる
咳きて飛石ひろひ来つつあり
えりにふる雪の劇しさ往くさ来さ
ガラス戸の冬の銀河に寝竦みぬ
大学の孕雀木木青む
燈台の遠の南のゆふがすみ
燈台は夕づき海髪のひしめける
燈台にぱむぱむ春の海よする
一夜泊つ燈台春の星のもと
草おぼろ木おぼろ家路しかと踏む
おぼめかす家路の宮に帽を脱る
もう敵機も来ない菜虫をとつてゐる
露しげくなりし焦土や菜虫とる
冷かやよそにおくるる菜のそだち
芭蕉見てこころ躍りや何の故
否も諾もあらぬ焦土の露葎
露焦土眺むることを祷とす
ふるさとや雁瘡の子の今もゐる
夜の霜いくとせ蕎麦をすすらざる
冬山の汽笛のこだまの船に帰す
夕霙みんな焦土をかへるなり
夕霙をりから池の端に在り
冬の宿つひに鋳掛をはじめけり
酔ひもどる帽子あみだや春の雁
町の夜の帰雁の声を惜みける
俳諧の昼のふかみに猫の恋