和歌と俳句

猫の恋

猫の恋昴は天にのぼりつめ 誓子

この月夜いつか見たりき猫の恋 誓子

星はみな西へ下りゆく猫の恋 誓子

月の出の夜々におくるゝ猫の恋 誓子

俳諧の昼のふかみに猫の恋 槐太

恋猫の恋する猫で押し通す 耕衣

身を舐めて恋の猫ゐる海の濱 誓子

春眠の女にのそり恋の猫 三鬼

恋猫に思ひのほかの月夜かな 汀女

猫の毛がちらばる昨夜の恋おそろし 誓子

恋猫のかへる野の星沼の星 多佳子

よこざまに恋奪ひ尾の長き猫 多佳子

恋猫にひらり三日月落ちかかる 鷹女

恋猫の地つづきに聖書読むべきか 静塔

猫の恋猫の口真似したりけり 万太郎

恋猫を墓ある闇の方へ追ふ 不死男

恋猫の足洗ひやるおとなしや 立子

恋猫の身も世もあらず啼きにけり 

ミサにゆく月日重ねて猫の恋 静塔

恋猫の四ツ足踏んで溝長し 不死男

恋猫の発する声をミサに容れ 静塔

恋猫とはやなりにけり鈴に泥 青畝

あてどなき猫の恋鳴きしそめけり 爽雨

第三の恋猫鳴いて樹が黒し 不死男

書き呆けて恋猫横丁昏れるかな 不死男

沼みどり瞳しぼつて恋の猫 多佳子

石庭をよぎりしのみの恋の猫 波郷

恋猫の皿舐めてすぐ鳴きにゆく 楸邨

山こむる霧の底ひの猫の恋 汀女

初恋の猫鳴らす鈴乾きけり 不死男

はるかなる地上を駈けぬ猫の恋 波郷

道よぎる恋猫の尾のいそがざる 爽雨

鳴き通る雪間雪の上猫の恋 爽雨

生あればかなしき糞す恋の猫 楸邨

恋猫が過ぎてあをあを青畳 楸邨

恋猫の鼻つけねむる板の上 楸邨