和歌と俳句

加藤楸邨

一つゐて頂上あるく羽抜鶏

稚子の墓露いつぱいの夏帽子

日光キスゲとその名覚えてまた霧へ

五人育てし胸乳いだきて雪田越ゆ

ひとり声出し山蟹のぞく郵便夫

深田刈冷えきつて目を光らしむ

穂絮つきて馬の睫毛は息ぐもり

風邪をうつして子を待ちし娘に叱られゐる

秋刀魚啖ふ口ステンカラージンをうたふ口

冬の嶺星谷に飛ばさし帽子とゐむ

冬柿掴んでひしげば猫が見てゐたり

雪がそそいで老牛の皮膚睡られず

ネオン明滅滅の間燃えて聖夜の星

木の芽峠か春満月の下けぶる

ぜんまいにさめてやさしき今年蛇

親不知鵜に黄塵を吹きおろす

黒牛が駅に顔入れ菜の花嗅ぐ

蒲の芽に日暮いそぎぬ羽前路

恋猫の皿舐めてすぐ鳴きにゆく

土筆一本ひかりとことこ鴉の子

霧の置きゆく白髪太郎といふ虫あり

蜩にきらめく一劃そこへくだる

月を仰いで夜の子燕にこはがらる

月にわが靴下北半島の砂こぼす

わが影の我に収まるきりぎりす

女すさまじひとりの顔が柿を食ふ