屠蘇くむや流れつつ血は蘇へる
つぎつぎに子等家を去り鏡餅
満つる力は破るる力牡丹の芽
春寒やうしろすがたのそぞろ神
終電や踏みて匂はす忘れ葱
捨て仔猫少女去りもうあてもなし
柿貪りこの暗き世とよくもいふ
柚子存在す爪たてられて匂ふとき
蛾の消えしところ口あき般若面
誘蛾燈を去りし時間が朝雲に
何か言へ鬼灯むいて真赤なら
青箸や乏しけれども庭芒
朝顔の咲いてしまひぬといふ如く
ぽたぽたと透くやうな柿誰に似し
黄鶲となつて去りにき市の中
手袋にかくさざりし手つとひらく
街師走かがめば鶏の世界が見ゆ
今も目を空へ空へと冬欅
冬欅少年に解けざりしもの今も
生けるものは重たさ持てり雪夜にて
冬鵙や黙つて死ねとかつての日
ばりばりと氷りてしかもわが寝巻
遠き死や土を掴みし霜柱
賀状のGanは巌のことか笹鳴ける
わが書きし字へ白息をかけておく