和歌と俳句

加藤楸邨

屠蘇くむや流れつつ血は蘇へる

つぎつぎに子等家を去り鏡餅

満つる力は破るる力牡丹の芽

春寒やうしろすがたのそぞろ神

終電や踏みて匂はす忘れ葱

捨て仔猫少女去りもうあてもなし

貪りこの暗き世とよくもいふ

柚子存在す爪たてられて匂ふとき

の消えしところ口あき般若面

誘蛾燈を去りし時間が朝雲に

何か言へ鬼灯むいて真赤なら

青箸や乏しけれども庭芒

朝顔の咲いてしまひぬといふ如く

ぽたぽたと透くやうな柿誰に似し

黄鶲となつて去りにき市の中

手袋にかくさざりし手つとひらく

師走かがめば鶏の世界が見ゆ

今も目を空へ空へと冬欅

冬欅少年に解けざりしもの今も

生けるものは重たさ持てり雪夜にて

冬鵙や黙つて死ねとかつての日

ばりばりと氷りてしかもわが寝巻

遠き死や土を掴みし霜柱

賀状のGanは巌のことか笹鳴ける

わが書きし字へ白息をかけておく