和歌と俳句

橋本多佳子

古雛をみなの道ぞいつくしき

やかまどは焔をしみなく

移り来て蕗の薹のみ鮮しき

わが住みて野辺の末黒を簷のもと

わすれ雪髪をぬらして着きにけり

廃園に海のまぶしき藪椿

春潮に指をぬらして人弔ふ

雨の天たしかに雲雀啼いてゐる

山吹や山水なれば流れ疾く

野の鹿も修二会の鐘の圏の中に

修二会僧女人二人のわれの前通る

つまづきて修二会の闇を手につかむ

野火燃やす男は佳けどやすからず

がうがうと七星倒る野火の上

初蝶に合掌のみてほぐるるばかり

仏母たりとも女人は悲し潅仏会

二月尽林中に鹿も吾も膝折り

野火跡を鹿群れ移る人の如

野火あとに雄鹿水飲む身をうつし

絵雛かけし壁をそのままくらがりに

恋猫のかへる野の星沼の星

よこざまに恋奪ひ尾の長き猫

桃畑恋過ぎし猫あまたゐて

花折つて少女 椿より降りしばかり

啓蟄の土の汚れやすきを掃く