和歌と俳句

橋本多佳子

伽藍の屋根大日わたる恋雀

恋雀頭に円光をひとつづつ

が来る阿修羅合掌の他の掌に

鱗甘し雪解千曲の荒鯉なり

吾待たで諏訪の大湖凍解けたり

雪解鳩よろこぶこゑを胸ごもらせ

信濃いま蘇枋紅梅氷解くる湖

春嵐鳩飛ぶ翅を張りづめに

四方の扉を閉して静かに春の塔

生いつまでをもつて日を裏む

切株ばかり鶯のこだまを待つ

ばらばらに漕いで若布刈の舟散らず

子が駆け入る家春潮が裏に透く

たんぽぽの金環いま幸福載せ

鎌遁れし若布が海女の身にからむ

あはび採る底の海女にはいたはりなし

海女潜り雲丹を捧げ来若布を抱き来

産みし乳産まざる乳海女かげろふ

海女あがり来るかげろふがとびつけり

かげろふを海女の太脚ふみしづめ

青葉木菟記憶の先の先鮮か

手繰る素直に寄り来藤ちぎる

の必死の誘ひ夕渓に

渦潮に対ふこの大き寂しさは

幾転舵春潮の舳に行方あり