りんりんと海坂張つて春の岬
海の鴉椿林の内部知る
椿林天透きてそこ風疾し
一人の遍路容れて遍路の群増えず
かりかりと春の塩田塩凝らす
一丈のかげろう塩田に働きて
黒々とかげろふ塩田方一里
出来塩の熱きを老の掌より賜ぶ
沼みどり瞳しぼつて恋の猫
暮れ際に茜さしたり藤の房
藤昏るる刻の浪費をし尽して
切れ切れに雨降る藤の低きより
藤の房寄りあひ雨のだだ濡れに
やはらかき藤房の尖額に来る
梢まで藤房重し一樹立つ
渦の迫門翅あれば鴉の翔けつづけ
渦潮に乗りゆく何の躊躇もなし
渦潮を乗り切るときに後退して
躊躇許さずはや舳を責むる渦の潮
渦潮を脱せし船体白波敷き
荒鎌の刈り若布を逸す疾潮に
疾潮に逸せし刈り若布惜しと立つ
渦潮と落ちゆく舵輪いつぱいに
梅渓に赤土露出せる一断崖
ひきよせてはつしと放つ梅青枝
吾等去つて木魂しづまる梅の渓
鶯や火を欲りて立つ崖の枯れ
鶯や山拓く火に昂りて
蝶の翅ひたひた粗朶の永乾き
桃桜野良ごゑ出せば胴ひびき
負ひ帰る海髪の滴り濡れついで
四方風樹仔雀を地に置放し
岩山を蝶越ゆ吾も幸福追ふ
薄明界蝶は眼よりも翅信じ
春雷のあとの奈落に寝がへりす
薪能枝を入日に枯櫻
咽喉笛を女面の下に薪能
薪能執しあひつつ二タ火焔
薪能雑色のみに火の熱気
薪能火焔熱しと眼に観じ
薪能悔過の女面を火の粉責め
目つむれば鉦と鼓のみや壬生念仏
壬生念仏とても女なればみめよき面
壬生念仏身振りの手足語りづめ
壬生念仏「喰はれ子」鬼に抱へられ
炮烙割れし微塵の微塵壬生念仏
春の日を壬生念仏が索きとどむ
天に蝶壬生念仏の褪せ衣
つづみうつ肉手丁々都踊
修学旅行緘黙紅き都踊
桜狩葬煙をいぶかりもせず
城址の記憶落窪と金鳳華