橋本多佳子
花会式造花いのちありて褪せ
手をつけば土筆ぞくぞく大地面
燦と燭良雄忌はまた主税忌よ
大石悼む低き鴨居のその低きも
大石忌仮恋とても恋佳きぞ
大石の死の刻春日この位置に
老の妓の笛座ゆづらず大石忌
投げ独楽の遠くにまはる吾と遊び
親よりも頭勝ちむつくり巣立鳥
泉の円一方切つて流れ出す
鈍男野焼きしことに勇みをり
紅椿直哉が捨てし涸れ筧
桜の下喪の髪にピンいくつも挿し
花万朶しづもるや喪の重き如
桜寒む生死の境くつきりと
桜見てひとり酌む酒手向け酒
げんげ畑そこにも三鬼呼べば来る
花万朶皮膚のごとくに喪服着て
眼にあまる万朶の桜生き残る
喪服着て花の間いそぐ生き残り
桜寒む熱き白湯飲み生一途
日をつつむ西方桜死は遠し
踏み込んで大地が固しげんげ畑
げんげ畑坐ればげんげ密ならず
蝶翅をつかへり風の群れ来るに
寒き戒壇人が恋しくなりて降る
みごもりて盗みて食ひて猫走る
捨仔猫見捨てし罪を負ひ帰る
病院のガラス春雲後続なし
春の河夜半に大阪ネオン消す
ガラス透く春月創が痛み出す
晩春やベッドの谷に附添婦
一羽鳩春日を二羽となり帰る
風に乗る揚羽の蝶の静止して
死ぬ日はいつか在りいま牡丹雪降る
月いでてわが袖の辺も朧なる
足袋白く霞の中をなほいでず
どんたくの仮面はづせし人の老い