にこちんの君の五指にて梅を折る
ばらの芽や舌も出さずに猫の恋
一汚点一黙示とも春蚊とぶ
春寒の藪の震へや友への債
春嵐に切れては乗りて檻の唄
鉄格子つかむ両手や芽木ばかり
恋猫の地つづきに聖書読むべきか
春嵐に帽子ころびて聖母訪ふ
受洗未だ岩の裂け目に芽木繁る
いとけなく蝌蚪とミサとをゆきもどる
わが仔猫神父の黒き裾に乗る
鶯や薬を秤るものしづか
春山に滝一すぢや尼の熱
荒衣を脱げぬ神父や春の星
素手のまづしさ復活祭の卵つかむ
ミサにゆく月日重ねて猫の恋
春蚊ゐる聖女のうぶ毛近くして
春水となるコンクリートの岸浸けて
梅花手に下車して高きレール越す
梅挿してマリアの白は奥深し
一筋の春日も入れず懺悔聞く
春月に妻一生の盥置く
身に余る羽を重ねて蠅生る
炊煙がいま棒立ちに桜の上
鶯や遠く重たき生木負ひ