和歌と俳句

平畑静塔

戸障子の耐ゆる光の大雪解

中日の斎きも暇な春の午后

榛の木が麦踏に来い来いと呼ぶ

万葉の早蕨摘みて笊に干す

窯出や童女を蝶が連れ去らぬ

日の遅さ死の口上を飛脚して

や耳も遺影は引伸し

鍔広し茶摘帽子を茶にかぶせ

大向富士茶摘笠解かしむる

しらじらと墓はかたまる梅の花

彼岸会やすべて有髪の墓ならで

みんなみへ乗り込みにけり雪解川

鳥の巣を地にこぼせしか宮大工

鳥の巣の転落瓦解卵割る

鳥居立つも神の草なりき

腰だめに雨戸引込む西東忌

大空寝涅槃の顔の横たはる

八十八夜茶山に蝶の手毬かな

茶摘唄姉に交じへて口籠る

木の芽和つつく隅隅まで母郷

鍋墨の顔ひそめけりくる

梨の花ふふむ裏戸に出る涙

摘むいぶせきものの出でて候

輿入の夜にもどりけり女夫雛

明るみに出過ぎたる墓西東忌