和歌と俳句

平畑静塔

門徒村畦火のけむり雲となる

荒畦火正す雑賀の簓にて

垂涎のごとき涙に涅槃泣

麦を踏むいづこも字は森を立て

浪まくらゆれて絵雛に津あらず

蝶を追ふ多佳子大姉の先んじて

天眼にそよげり老婆の目

座る余地まだ涅槃図の中にあり

乾坤をゑがけり涅槃者を含め

劫よりも永き時まで涅槃さる

独活堀りしうれひに曇る春の午後

西東忌牛の不死男はまだ見えて

白魚の指古雛の肌つづき

尊徳を伝へて総出畦を焼く

定日の尊徳晴に畦を焼く

花衣着て三鬼以下雲を漕ぐ

春星へ避難階段桁重ね

春雷や豚のくれなゐ耳にあり

眼には或るものを引き据ゑ春田打つ

雛の軸掛けしのみ鳥接吻す

ここも耕し夫婦に畦の厚湯呑

畦塗りの腰ふわふわと雪嶺よ

老いて裸足田螺の水は透きとほり

松の花さかりて海に長命す

酒を酌む紫雲英に棟を上げたれば