春の鳥双眼鏡に一つかな
雛の日や海はかたぶき砂に沁み
春愁の灯もて埋るる佛かな
春先の正午愚妻と赤松と
夏近し父の着尺の縞こまか
春霞老母と天とややへだつ
紅梅を老の光のつつみたる
山深く松を植うるや春の風
村ぬちに霞ふるなり実朝忌
小櫻や一枚の衣あればよし
菜の花や老いてはならぬ膝頭
花杉や佛の群のおん昼間
蓬生や白毫光のいざよへる
白毫光蓬の萌ゆる匂ひ差し
瓜苗やたたみてうすきかたみわけ
恋猫の恋する猫で押し通す
春の蚊のつまづきとぶも寿司の味
無力にてつめたくしたり黄揚羽に
揚羽よりいつも近づき来るなり
うつうつと最高を行く揚羽蝶
老梅の隈なく花を著け終る
老梅に照らし出されて遊びけり
幼にして天を思へり春の暮
百姓に今夜も桃の花盛り
天隠れゆく揚羽蝶伴侶なく