和歌と俳句

永田耕衣

あたたかき甍の厚味割るるなよ

竹の葉を撫で分け頼む涅槃像

あたたかき甍は何処へ行かむとす

蓬摘む真似を男も恋ひつせり

水溜り花の満月映りゐず

銀鱗よ墓の附録のごと耕す

蝶の朝建てたる墓を平手打つ

夜なれば椿の霊を真似歩く

恋猫を軽く見て海雨降れり

歪曲や尼の手をとる椿の霊

橋暮れて子供の如し春の風

鳴るや饅頭四五個思い出づ

生き身こそ蹤跡無かれ桃の花

紅梅や筥を出て行く空気の珠

我が頭穴にあらずや落椿

草焼の火隠れの火の寂しさよ

桃の花母よと思えば父現われ

老椿己が莟に目つむれり

老いて同族の紺見当たらぬ

陽炎や我に無き人我をでる

皆行方不明の春に我は在り

蓬生の乱れは父母の乱れかな

まで蓬まで来て老いざらむ

暁闇も人類無かれ桃の花

病雀は花のなかなり花の道