和歌と俳句

苺 いちご

余所余所の山は覆盆子の盛哉 支考

岩ばなや旅人労ていちご食ふ 白雄

ほろほろと手をこぼれたるいちご哉 子規

旅人の岨はひあがるいちご哉 子規

いちごとる手もとを群山走りけり 子規

いちご熟す去年の此頃病みたりし 子規

玻璃盤に露のしたたる苺かな 漱石

さあさと麦藁かけよ草いちご 龍之介

刈り麦もこぼれかかりつ草苺 龍之介

乳鉢に紅すりつぶすいちごかな 碧梧桐

流水にたれて蟻ゐる苺かな 蛇笏

白雲や野を来し卓に覆盆子あり 石鼎

からかさにさはるからかさ苺摘む みどり女

葉のかげの蔓に見えゐる苺かな 石鼎

いちごつむ籠や地靄のたちこめて 蛇笏

苺食む朱唇ミルクに濡れそぼち 草城

ハンケチを戴きかざし苺摘 花蓑

青春のすぎにしこころ苺喰ふ 秋櫻子

忍び来て摘むは誰が子ぞ紅苺 久女

十ばかり熟れて今日摘む苺かな 悌二郎

雨やみて苺畑に姉妹 みどり女

いちご、いちご、つんではたべるパパとボウヤ 山頭火

苺つむ手籠は蕗の葉もておほふ 悌二郎

夕ぐれの卓の克に初苺 蛇笏

紅苺垣根してより摘む子来ず 久女

熟れそめし葉蔭の苺玉のごと 久女

朝なつむ苺の露に指染めむ 久女

緑葉にかくさうべしや紅苺 久女

朝日濃し苺は籠に摘みみちて 久女

手づくりの苺食べよと宣す母 久女

摘みとりて蟻はふ籠の苺かな 麦南

沢水に摘みこぼれたる苺かな 麦南

怠たりそ疲れそ苺なども食べ 草田男

萼よりはずし掌にのせ山苺 草田男

苺置き辞書おき子の名選ぶなり 爽雨

日に光ろてとがる真紅の蓬藁かな 石鼎

白々といまだ稚き蓬藁かな 石鼎

雨に出でて二三顆摘みし蓬藁かな 石鼎

大蟻のじつと咬みたる蓬藁かな 石鼎

音も無き苺をつぶす雷の下 波郷

茂吉
乳の中になかば沈みしくれなゐの苺を見つつ食はむとぞする

苺ジヤムつぶす過程にありつぶす しづの女

苺ジヤム甘し征夷の兄を想ふ しづの女

苺ジヤム男子はこれを食ふ可らず しづの女

苺くふや眼鏡こはれし雨の街 楸邨

海戦報町に苺の出初めたり 林火

はからずも麗貌を眼に苺喰む 草城

とりいだす苺の紅の箱に滲む 林火

酔ひの目に苺は紅しひとつづつ 楸邨

木々に雨兄妹皿に苺を頒つ 

手術経て苺つぶせり左手に 波郷

今日迷ふ紅き苺の珠を累ね 耕衣

垣ざかひまで来し朝日苺つむ 立子

死の雨か摘まれし苺やはらかく 青畝

心ふとうつろにつぶす苺かな 汀女

今つぶすいちごや白き過去未来 三鬼

雌伏の頃の友住みし町初苺 草田男

早起の帯なし農婦苺つむ 静塔