和歌と俳句

種田山頭火

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朝風、胡瓜がしつかりつかんでゐる

柿の花のぽとりとひとりで

てふてふうらからおもてへひらひら

街が灯つた青葉を通して遠く近く

山は青葉して招魂碑いよいよ白し

空が人が田植はじまつてゐる

兄がもげば妹がひらふさくらんぼ

ひとりとなればひとりごと

夕闇のぽきぽきぬいていつたよ

朝露しとど、行きたい方へ行く

窓へ筍伸びきつた

青葉まぶしく掌をひらく

夕あかりの枇杷の実のうれて鈴なり

夜明けの月があるきりぎりす

夏草の、いつ道をまちがへた

道がなくなればたたへてゐる水

これからまた峠路となるほととぎす

ほととぎすあすはあの山こえてゆかう

寝ころべばも生えてゐる

山鶯も山頭火も年がよりました

笠きて簑きて早乙女に唄なく

ふるもぬれるも旅から旅で

青葉に雨ふりまあるい顔

さみだるるや真赤な花の

はたらく空腹へさみだれがそそぐ

糸瓜植ゑる、そこへ哀しい人間がきた

親も子も田を植ゑる孫も泥をふむ

煮るもほろにがさにもおばあさんのおもかげ

もおちつかない二人のあいだ

昼も蚊がくるうつくしい

はれたりふつたり青田となつた

梅の実も落ちたままお客がない

田植べんたうはみんないつしよに草の上で

なにかさみしい茅花が穂に出て

草しげるそこは死人を焼くところ

けふもいちにち誰も来なかつた

いつもかはらぬお地蔵さんで青田風

水音をふんで下ればほととぎす

すつぱだかへとんぼとまらうとするか

ふりかへるうしろすがたが年よつた

とんできたかよいつぴき

伸びあがつて蔓草のとりつくものない

竹の子も竹となつた窓の明け暮れ

梅雨空へ伸びたいだけ伸びてゐる筍

てふてふひらひらおなかがすいた

むしあつく蟻は獲物をだいてゐる

ひとりでたべるとうがらしがからい

夏山ひそかにも死んでいつたか南無阿弥陀仏

晴れわたり蓮の葉のあたらしい色

草の青さに青い蛙がひつそり