和歌と俳句

種田山頭火

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春もゆくふるさとの街を通りぬける

かきつばた咲かしてながれる水のあふれる

五月晴、お地蔵さんの首があたらしい

たちよればしづくする若葉

夏山のトンネルからなんとながいながい汽車

竹の子みんな竹にして住んでゐる

ここでやすもう月草ひらいてゐる

ふるさとの山はかすんでかさなつて

誰もゐない蕗の葉になつてゐる

線路がひかるヤレコノドツコイシヨ

春はゆく鉢の子持つてどこまでも

地べたべつとりと浜朝顔の強い風

わがままきままな旅の雨にはぬれてゆく

夏めいた雨がそそぐや木の実の青さや

ずんぶりぬれて青葉のわたし

がもう咲いてゐる濁つた水

ふつたりやんだりあざみのはなだらけ

あやめあざやかな水をのまう

うごいて蓑虫だつたよ

やうやく晴れてきた桐の花

南天のしづくが蕗の葉の音

ぬれるだけぬれてゆくきんぽうげ

若葉して遠く街がかくれた

ほととぎすがなけば鴉も若葉のくもり

伸びぬいての青空

くもりおもたく蛙のなく

ひつそり暮れるよ蛙が鳴くよ

によこりとこまかい雨ふる

雨ふるあやめで手がとどかない

青葉の雨のしんかんと鐘鳴る

注連を張られて巌も五月

初夏や人は水飲み馬は草喰み

うごかない水へ咲けるは馬酔木の花で

電線といつしよに夏山越えて来た

もう明けさうな窓あけて青葉

さみしいけれども馬鈴薯咲いて

水もさつきのわいてあふれる

若竹がこまやかなかげをつくつてゐた

ともかくもはうれてゐる地平

葉ざくらとなつてまた逢つた

ひさびさと逢つてさくらんぼ

がつちりと花を葉を持つて泰山木

かげは楠の若葉で寝ころぶ

わかれきて峠となればふりかへり

風のてふてふのゆくへを見おくる

こころむなしく旅の煤ふる

ひさびさもどればによきによき

たれかこいこいがとびます

さらさら青葉の明けてゆく風

こころすなほに御飯がふいた