和歌と俳句

若葉

傘にすけて擦り行く雨の若葉かな 久女

いつの間に若葉してゐし庵かな 石鼎

下りたちて天地尊とき若葉かな 石鼎

高嶺つつむ雲の中こそ若葉なれ 水巴

追分に饅頭蒸さるゝ若葉かな 喜舟

方丈へ筧走らす若葉かな 喜舟

汽車の人つぎつぎ降りて山若葉 石鼎

山木若葉岩を包みて数十種 石鼎

相逐うて鳰鳴き躍る若葉かな 石鼎

浮く鳰の美しかりし若葉かな 石鼎

いとも小さき魚釣りあげぬ若葉人 石鼎

いち遅き庭木も若葉よそほえる 石鼎

紫の座布団一つ窓若葉 石鼎

燈籠の障子出来来ぬ若葉庭 石鼎

しろこばと梧桐の若葉越えもどる 石鼎

廃坑、若葉してゐるはアカシヤ 山頭火

若葉のしづくで笠のしづくで 山頭火

育ててくれた野は山は若葉 山頭火

若葉かげよい顔のお地蔵様 山頭火

山は若葉の、そのなかの広告文字 山頭火 若葉、高圧線がはしる 山頭火 ゆふべひとときはさびしい若葉で 山頭火 雀したしや若葉のひかりも 山頭火

たちよればしづくする若葉 山頭火

若葉して遠く街がかくれた 山頭火

筆硯の新しかりし庭若葉 風生

滝つ瀬の移り見えつつ若葉かな 石鼎

早乙女も早苗女房も若葉より 石鼎

婆子も子も縞のもんぺや若葉茶屋 石鼎

壁に吊る古雪沓や山若葉 石鼎

おばしまにみなよつてゐる若葉かな 青邨

三段の若葉の色を数へけり 立子

若葉雨なにかやさしくものを言ふ 麦南

若葉して人に触るるや毒卯木 普羅

雨の日も風の若葉や庭木越 石鼎

書庫暗し若葉の窓のまぶしさに しづの女

風はうつろの、おちつけない若葉も 山頭火

影もはつきりと若葉 山頭火

誰もたづねて来ない若葉が虫に喰はれてゐるぞ 山頭火