和歌と俳句

葵祭

後撰集 よみ人しらず
ゆきかへるやそうし人の玉かづらかけてぞ頼む葵てふ名を

詞花集 大蔵卿長房
年をへてかけし葵はかはらねど今日のかざしはめづらしきかな

詞花集 源兼昌
榊とる夏の山路やとほからむゆふかけてのみまつる神かな

俊成
ちはやぶるかものやしろの葵草かざすけふにもなりにけるかな

西行
むらさきの色なき程の野べなれやかた祭にてかけぬ葵は

実朝
葵草かづらにかけてちはやぶる賀茂の祭をねるや誰がこぞ

実朝
葵草かつらにかけてちはやふる加茂の祭りをねるやたかこそ


草の雨祭の車過てのち 蕪村

加茂衆の御所に紛るゝ祭かな 召波

下々の下のかざしもあふひ祭かな 暁台

碓の幕にかくるゝ祭かな 太祇


行列の葵の橋にかかりけり 青邨

地に落ちし葵踏み行く祭かな 子規

晶子
祭の日葵橋ゆく花がさのなかにも似たる人を見ざりし

利玄
この都にほへる花とさかえけむ代に逢へるごとき葵祭かも

利玄
行列を待つ人垣の前通る娘は羞ぢらひて丹の頬てらへり

利玄
まなかひの葵うるさみ首ふれる祭の馬がこぽこぽとほる

利玄
装束に昼の日映えて祭人われ等も前をしとしと通る

利玄
花傘をはこべる人は力み居りゆさゆさ搖れて花傘が来る

一と日のびし葵祭や若葉雨 淡路女

しづしづと馬の足掻や賀茂祭 虚子

御車はうしろさがりや賀茂祭 夜半

冠に葵桂のぶらさがる 夜半

白丁の顔の小き賀茂祭 夜半

白丁に随ふ賀茂の牛童 夜半

雑色の手をふところに賀茂祭り 夜半

稚子すでに上りし鉾の日傘 夜半

人形に倣ふといへど鉾の稚子 夜半

うでぬきの紅濃なりける鉾の稚子 夜半

日は天に葵祭ははなやかに 杞陽

森の中の道ゆく葵祭かな 杞陽

うちゑみて葵祭の老勅使 青畝

馬並べ葵の禰宜のたちならび 青畝

着倒れの京の祭を見に来り 虚子

ばらばらに葵桂や渡御果てて 青畝

くたびれて練る白丁どち葵踏む 青畝