和歌と俳句

正岡子規

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五女ありて後の男や初幟

滝殿のしぶきや料紙硯箱

ざれ歌の手跡めでたき

椎の舎の主病みたり五月雨

かたまりて黄なる花さく夏野

鴨の子を盥に飼ふや銭葵

林檎くふて牡丹の前に死なん哉

三日にして牡丹散りたる句録哉

水清く肥えし里に隠れけり

夏籠や仏刻まむ志

湯に入るや湯満ちて菖蒲あふれこす

地に落ちし葵踏み行く

薫風や千山の緑寺一つ

鉢植の梅の実黄なり時鳥

薄色の牡丹久しく保ちけり

糠味噌に茄子の契かな

短夜を燈明料のかすりかな

五月雨上野の山も見あきたり

病人に鯛の見舞や五月雨

けしの花大きな蝶のとまりけり

昼中は散るべく見えし牡丹かな

灯のうつる牡丹色薄く見えにけり

寐床から見ゆる小庭の牡丹かな

すずしさの皆打扮や袴能

三尺の鯛生きてあり夏氷

網の舟料理の舟や舟遊び

破団扇夏も一炉の備哉

李斯伝を風吹きかへす昼寐かな

画き終へて昼寐も出来ぬ疲れかな

梅雨晴や蜩鳴くと書く日記

薔薇を剪る鋏刀の音や五月晴

薫風吹袖釣竿担ぐ者は我

青嵐去来や来ると門に立つ

夏野行く人や天狗の面を負ふ

夏山や岩あらはれて乱麻皺

氏祭これより根岸蚊の多き

時鳥辞世の一句なかりしや

始めて鳴く鮠釣る頃の水絵空

御庭池川せみ去つて鷺来る

川せみや池を遶りて皆柳

天狗住んで斧入らしめず木の茂り

柱にもならで茂りぬ五百年

病間や桃食ひながら李画く

歯が抜けて堅く烏賊こはし

筍哉虞美人草の蕾哉

畑もあり百合など咲いて島ゆたか

箒木の四五本同じ形かな

罌粟さくや尋ねあてたる智月庵