和歌と俳句

牡丹 深見草

一輪の牡丹咲きたる小庭哉 子規

植木屋の門口狭き牡丹哉 子規

人も無し牡丹活けたる大坐敷 子規

舟つけて裏門入れば牡丹哉 子規

牡丹咲く賎が垣根か内裏跡 子規

銀燭にから紅ひの牡丹哉 漱石

廃苑に蜘のゐ閉づる牡丹哉 子規

しづ心牡丹崩れてしまひけり 子規

寂として椽に鋏と牡丹哉 漱石

子規
とばり垂れて 君いまださめず 紅の 牡丹の花に 朝日さすなり

林檎くふて牡丹の前に死なん哉 子規

子規
草つゝみ 病みふせるわが 枕邊に 牡丹の花の い照りかがやく

子規
たて川の さちをがりより 贈り来し 牡丹の花に ふみ結びあり

子規
くれなゐの 光をはなつ から草の 牡丹の花は 花の王

子規
蓬生の 病の床に 鶴をくひ 牡丹のながめ わが富貴足る

子規
古鉢に 植ゑし牡丹の 枝長く よろよろとして 一輪開く

子規
高瓶に させる牡丹の こき花の 一ひらちりて 二ひらちりぬ

鉄幹
まどかなる光明負ひますまぼろしや牡丹ゆすれて闇白うなりぬ

左千夫
くれなゐの牡丹かざして病める児が僅にゑむを見ればうれしも

左千夫
ふる雨にしとどぬれたるくれなゐの牡丹の花のおもふすあはれ

左千夫
雨の夜の牡丹を見ると火をとりて庭におりたちぬれにけるかも

左千夫
かぎろひの火を置き見れば紅の牡丹の花の露光あり

左千夫
雨の夜をともす燈火おぼろげに見ゆる牡丹のくれなゐの花

昼中は散るべく見えし牡丹かな 子規

灯のうつる牡丹色薄く見えにけり 子規

寐床から見ゆる小庭の牡丹かな 子規

利玄
花びらをひろげ疲れしおとろへに牡丹重たく萼をはなるる

晶子
君に似し白と濃紅とかさなりて牡丹ちりたるかなしきかたち

晶子
白きちさき牡丹おちたり憂かる身の柱はなれし別れの時に

晶子
琴とればよき香いざよひ牡丹ちる紅の瑪瑙の花づくゑかな

晶子
牡丹こそ咲かば諸王にまゐらせめ誰れに着せましわが恋ごろも

驟雨来る別れの朝の牡丹かな 碧梧桐

晶子
その白さそこひも知らぬ尊さの大き牡丹はまぼろしを生む

山雲の翔りて咲けるぼたんかな 蛇笏

牡丹しろし人倫をとく眼はなてば 蛇笏

牡丹や阿房崩すと通ふ蟻 蛇笏

日輪を送りて月の牡丹かな 水巴

牡丹二本浸して満つる桶の水 水巴

玄関に大きな鉢の牡丹かな 鬼城

ぼうたんの蕾に水をかくるなよ 鬼城