和歌と俳句

セル

白秋
こころもち黄なる花粉のこぼれたる薄地のセルのなで肩のひと

セルを著て夫婦離れて椅子に在り 虚子

旅ごろもセル一枚の手軽さに 橙黄子

セルを著て肩にもすそに木影かな 虚子

セルを着て病ありとも見えぬかな 虚子

セルと重ねあやめ模様の襦袢かな 鷹女

セルを著て静脈青き腕かな 鷹女

ゆきちがふいづれもセルのをとめたち 草城

二三點雨のかわかぬセルの肩 草城

セルを着てうつくしき月頭上にす 林火

身の末をおもへどセルのかるきかな 万太郎

セルを着て玉蟲色の鼻緒あり 汀女

頬白くくちびる紅くセル碧き 草城

青空がみなぎりセルが白つぽい 草城

寝たる街セルかろくして肌さむし 悌二郎

セルを着ていちご食ぶ日の誕生日 

汚れゐる手にふれさせずセルの膝 久女

ひもじさは嬉しさに似てセルの胸辺 草田男

すがすがし薄色つつじセルの人 たかし

赤んぼの五指がつかみしセルの肩 草田男

海越ゆる一心セルの街は知らず 楸邨

セルの肩かへりみしときなほ落暉 楸邨

用心の寒さ暑さもセルの頃 虚子

背ぢゆうに寐押しするなるセルざわり 

セル着れば勤めの疲れしづかに出でぬ 

セルを着て白きエプロン糊硬く 虚子

セルを着て父を敬ふかぎりなし 汀女

セルを着て稚き金魚買わんなど 欣一

セルを著て彼女健康其ものか 虚子

セルの胸冷えてさみしき思ひなど 林火

日高きに戻りセル着て庭に出づ 林火

セル著れば風なまめけりおのづから 万太郎

童話書くセルの父をばよぢのぼる 草田男

吾子のセル涙と涎玉とはぢき 草田男

大いなる虹に向ひてセルにゐぬ 林火

海の日に虹の生るるセルの肩 林火

セルを著て細き腕の頬杖つき 立子

セルを着て暑し寒しと思ふ日々 虚子

些事ひとつ消えてはうまるセルの頃 秋櫻子

セルの身は松の花粉によごれやすし 誓子

セルを着て硝子の破片踏みて戻る 綾子

セルを着て手足さみしき一日かな 林火

セル軽く俳諧われを老いしめし 鷹女

鶏卵を買ひきて拡ぐセルの膝 節子

白堊ヴィナス戦後はセルの季とてなく 草田男

玄関から灯からすぐ消えセルの友 草田男

セルむかし、勇、白秋、杢太郎 万太郎

セルの肩 月のひかりにこたへけり 万太郎

セルとネル著たる狐と狸かな 万太郎