和歌と俳句

中村草田男

来し方行方

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橇駆る子等や喪へ行く我の足遅し

青空や雪の浅間の両開き

深雪道来し方行方相似たり

空は太初の青さ妻より林檎うく

斯かりし母よ育児の妻よ風の柘榴

寒の暁ツイーンツイーンと子の寝息

金星や賜ひし炭を火にしつつ

もの言へば雑炊焦げの舌にがし

共に雑炊喰するキリスト生れよかし

春も青し寮の玻璃戸の月なれば

杉菜の雨民の竃の一つを焚く

耕せばうごき憩へばしづかな土

我が馬鈴薯実のれ燕雀たのしげなり

実桜や折紙細工の本が形見

蝌蚪小さし浮かびて消ゆる水泡よりも

写真の中四五間奥に薔薇と乙女

童話書くセルの父をばよぢのぼる

吾子のセル涙と涎玉とはぢき

雷一過青と金とに孔雀濡れ

孔雀水平に尾を支ふ五月の海如何に

枯枝も相組めオリオン正しきに

悴みてひとの離合も歪なる

真横へと走せし流星地に疎し

息の白さ豊かさ子等に及ばざる

瑠璃蜥蜴故郷焼けて海残りぬ