晩涼やさびしきまでに草の丈
夏は殊に芭蕉広葉の影好む
蜂あまたゐてひまはりの花芯細し
晩夏光刃物そこらにある怖れ
蝉しぐれ樹々は泉石かき抱き
あほぞらへ蝉音放てり野の一樹
早乙女を昼見きゆふべ月を見き
炎天を来て湯を浴びる音を立て
葛山を占むる晩夏の汽車の笛
蟇鳴くを夜のしらせとして灯す
葭切や蔵書のみなる教師の死
雷雲を待つや野茨のしづけさは
腰高の仔牛西日がまだ眩しげ
波くぐるかに晩涼の灯の浸る
夜も出づる蟻よ疲れは妻も負ふ
セルを着て手足さみしき一日かな
田を植ゑてきし若者と月を見る
帚草余生の母に夜も青し
合歓老いぬ父この海に吾を抱きし
灼くる葉を樹頭にしたり 泉湧く
いや白きは南風つよき帆ならむ
海によろこびあり雲の峰うつりをり
耳遠く端居を好む母となれり
百日紅この叔父死せば来ぬ家か
晩夏ながし一木一草なく住めば