和歌と俳句

大野林火

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明易の海近ければ白鴎

屑入に花屑まじる五月かな

その夜暑し思ひ詰めては死に到る

訳もなく妻を叱りぬ夕薄暑

四六時中点滴梅雨雲千変す

額縁の金も絵のうち麦の秋

いくばくの余命を得たり更衣

昇るラジオ名曲伴ひて

新茶一滴のこる胃に享け生き得たり

五月夜空月あり昼と異ならず

海南風四通八達港より

腰湯して気遠くなりぬ梅雨の底

岬の鼻思へと萱草抱へ来し

月の出の闇をたのしむ端居かな

清拭や紫陽花の藍霽れあがり

立ち昇る雲なり鉄砲百合ひらく

晩涼のさびしや痩せるだけやせて

旱星眠れぬ者に身じろがず

眠られぬ病者にともる蚊遣香

ひとの血を貰ひ耐ゆるや油照

うなぎ食べ予後の長さを計りをり

夜鳥鳴き過ぐるや端居更けにけり

食べものの名ならべてはに耐ゆる