和歌と俳句

大野林火

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雪晴や町中に山の影感ず

霜夜来し髪のしめりの愛しけれ

本買へば表紙が匂ふ雪の暮

襟巻ふかく夜の水鳥に立たれけり

寒夜にて川の奔流あらはなり

死顔に涙の見ゆる寒さかな

雪となりし野の寂漠に壁へだつ

隠沼の枯草色となりにけり

わが竹馬ひくきを母になげきけり

夕千鳥縹渺とわが息澄めり

大いなる枯野に堪へて画家ゐたり

落葉に教師と妻とかげはこぶ

冬の日や細菌の図を染めて落つ

外套の襟立てて何のうれひある

空たかく教師の家の庭枯れぬ

花舗の燈や聖誕祭の人通る

懺悔の涙ぽつんと冬木ともるとき

路地ふかく英霊還り冬の霧

足袋はやくうしろ姿を見られつつ

蓬髪のわれよりたかく蘆枯れたり

粉雪ふつてゐる畑の畝そろへり

思ひとほし柊の花に立ちどまる

寒さ堪へがたし妻子待つ灯に急ぐ

炭火吹く二重廻しの肩を撥ね