浴衣あたらしく夜の川漕ぎくだる
よしきり河越えぬ向ふ岸の葭
あけがたやうすきひかりの蛍籠
漁師の肩おほきくおもふ薄暑かな
セルを着てうつくしき月頭上にす
山の上たひらに麦の秋となる
みやこぐさ名もこころよくよろこびぬ
山蝉に磧はいまだ灼けざれど
みどりの土手つづけり南風霽れてくる
緑陰にとほく葵のかがやける
灯取蟲その夜はげしく酔ひにけり
甘蔗植ゑて島人灼くる雲にめげず
照り潮やためともゆりは丘に咲き
炎日のもと来しなげき流人帖
百日紅あかるきもとに流人もふ
空蝉をひろふ流人の墓ほとり
朝ながく牡丹の露の地を染めぬ
熟れ麦を手にたのしむや濤音す
夕日さすわが胸もとへ麦伸びし
蛾の舞ひやおのづとひかるえんまの眼
子の髪の風に流るる五月来ぬ
緑蔭やいねたらぬ眼をつぶりゆく
浜街道日除に浪のひびく日あり
柳垂り五月の夕焼にごりなき
夕月が幟をとほきものとする