和歌と俳句

麦の秋

燕や白壁見えて麦の秋 子規

うれしげに犬の走るや麦の秋 子規

兀山のてかてかとして麦の秋 子規

野の道や童蛇打つ麦の秋 子規

鞭鳴す馬車の埃や麦の秋 漱石

雨二滴日は照りかへす麦の秋 虚子

海濁る津に上る旅や麦の秋 碧梧桐

麦の秋匈奴逼ると聞えたり 碧梧桐

白秋
麦の秋夕かぐはしき山の手に観世音寺の講堂は見ゆ

白秋
麦の秋観世音寺を罷で来て都府楼の跡は遠からなくに

白秋
夕あかる櫨の木むらの前刈るは誰が麦秋の笠の紐ぞ

麦秋や麦にかくるる草苺 龍之介

麦秋や頬を地につけて風呂火焚く 泊雲

麦秋や葛西六郎墓移転 茅舎

ガタ馬車のべらべら幌や麦の秋 茅舎

麦秋や古墳の如き瓦竃 茅舎

麦秋の紫蘇べらべらと唐箕光 蛇笏

北嵯峨や藪の間々麦の秋 泊雲

刈株に鎌の刃跡や麦の秋 石鼎

茂吉
長崎の 麥の秋なる くもり日に われひとりこそ こころ安けれ

江流の高まさる濁り麦の秋 橙黄子

長雨のあとの風寒麦の秋 青畝

大松の夕日見なれし麦の秋 かな女

麦秋の蝶吹かれ居ぬ唐箕先 蛇笏

麦稈の塩籠出来ぬ麦の秋 花蓑

麦秋やよそよそしくも昼寝僧 月二郎

麦秋の人々の中に日落つる 禅寺洞

麦秋や日出でて霞む如意ヶ嶽 草城