和歌と俳句

吉岡禅寺洞

1 2 3 4

峰二つ越えて寝てゐる蒲団かな

断崖の塵吹き落す冬の海

手水鉢の氷砕きゐる遠忌かな

寒雀猫にとられてまろまろと

から風や青菜踏みつけ檻の鷲

松原にとまる電車や冬の月

凍て虫をくはへとびたる鶲かな

日あたりに斧研ぐ杣や水涸るる

寒風やたかくは飛ばぬ土の鳥

屋根の上に月ありと知る火鉢かな

ほくほくと老の寝にゆく布団かな

霜除の縄ながながと解かれけり

霜どけの塊うごき見ゆるかな

つちかへどなほくたれ葉の冬菜かな

火になりて松毬見ゆる焚火かな

夕づきてけむの匂へる干菜かな

大根をひきよこたへて焚火かな

痩せ痩せし土に咲き出て棉の花

提灯の下にあそぶ子お霜月

夜もすがら句作る炭火育てけり

塵取も夕日の中や日短き

この一本落葉はげしくなりにけり

干菜落ちて塀にもどさん人もなし

日向ぼこに影して一人加はれり

さわさわと霰いたりぬ年の市

馬車つくや大つごもりの山ホテル

ませがきに落早の日や寒の入り

枯枝を笄ざしや落葉籠

禰宜の子の独りあそびや枯桜

探梅のあとさがりなる袴かな

萩叢を刈ろと思へど日向ぼこ

葱ひきや鳥のとまりしたて朸

掛蓑にとまる羽音や冬の鳥

鎮守府の中の野道や寒烏

枯山の入日なつかし炭売女

わが前に消えしつむじや枯堤

枯櫟霜除したる木に隣る

霜除を終へたり木々の夜を迎ふ

また一人来て凍鶴の前に立つ

いづこより来てつくる菜や冬の山

落ちてあるからたちの実や十二月

おもかげのまなこ細さよ日向ぼこ

歳晩やキネマはねたる市の塵

芦むらのうす日をさそふ焚火かな

市中に枯野のありて泊りけり

枯原や溝よりたちし瑠璃鶲

ひとはふり塵ののりたる深雪かな

寒禽のゐて落したる枯枝かな

石一つありてせせらぐ冬の溝

深草のなにがし池の涸れにけり

時雨傘通天橋にとどけらる

かいつぶりに女のなげし石とべり

ちぢれ葉はうちかさねたる冬菜かな

ふきおちて土になづめる干菜かな

燠かきのかくもへりゐて時雨宿

失業をしてゐるマスクかけにけり

かじかみし手をあげてゐるわかれかな

蜂一つついてゐたりし干菜かな

干菜していつのほどにか二階住

あらたまる寒のすがたの干菜かな

貝割菜つみにいづれば一時雨

社会鍋古き街衢の四つ辻に

かりそめの河豚の友とはなりにけり