子をくはへて秋猫土間をさまよへり
露の夜の仏に不意に蝋燭火
篠曲げて拙き罠や鳥の秋
かけ稲の樅噛み去るや時雨雲
大空に見えて落ち来る木の実かな
半蔀によりかかり見る出水かな
白川や二羽ゐてとびし石叩
露草の瑠璃をとばしぬ鎌試し
月の山人声ありてのぼりゐる
天の川この秋の客誰々ぞ
籾すりの有明月に灯消せり
貂棲んで剽軽鳴きや夜長宿
秋出水ささやき合ふてひきにけり
刈萱のたへにも白し草泊り
戸口なる紅葉明りや焼鳥屋
今日よりや落穂拾ひのかげを見ず
鶫罠赤き実撒いてこれでよし
そこはかとなき雑音や秋の暮
夕露に栗鼠の逃げたるあたりかな
瓜枯れてきちきちのとぶ西日かな
槌あぐればきこゆる音や網代打
庭先のげんのしようこや小鳥来る
ちりあなにこほろぎとべる野分かな
ははきぎを吹きおこしたる野分かな
流れくる水葱をすくひぬ秋出水
ふなべりにわかるる水葱や秋出水
蕪大根良夜の双葉あげにけり
銀杏のちりもはじめず夜学校
夜学部に歌の友だち来て居りぬ
足もげのかのこほろぎの鳴きにけり
をちかたにきちきちばつたとび交へる
芋の家月の夜念仏はじまりぬ
流れくる障子洗いひのたわしかな
障子洗ふ人居りたれば磧まで
土手の下障子あらひのゐたるのみ
畦豆もうちかけてある稲架を見る
かつぎゆく案山子の眉目ありにけり
こほろぎの一疋くどを守りにけり
こほろぎに夜だちのむすび出来にけり
台風のすぎたる土のばつたかな
青空にきゆる雲あり鯔の海
山川のあをさに洗ふ障子かな
萩の丘下に汽車つき電車去る
千燈明をともすわらべの露の秋
かがまりて千燈明をなつかしむ
秋風にともる濡衣観世音
千燈明の火垂るるなり露の秋
刈られずにありたつ萩や仙濠
烏瓜うれてゐるなり仙濠
椋の実を拾うふ子のあり仙濠
風の中落穂ひろひのよろめきし
きちきちの音もたまたま遠賀づつみ
城山にのぼりてつきし草虱
一すぢの糯の落穂のひろはれし
ひもすがら日のあたり居り稲架襖
山なみに初猟の日のしづむなる
干籾にしぐれ日和となりにけり
秋雨や用もなけれど博多まで
友くるや夜食の箸をおろすとき
露の香やメロンの網に手をふるる
かねをうつ閻魔祭の裸形あり
かまきりのゆるぎいでしがものをはむ
茸山に見えてとまれる汽車のあり
塔頭の柿うまうして人寄りぬ
蔦の実の日ざしの秋の深まりぬ
末枯の舞台のあとにいつまでも
あしもとにちさきばつたの音ありし