夏目漱石

埒もなく禅師肥たり更衣

埋もれて若葉の中や水の音

影多き梧桐に据る床几かな

郭公茶の間へまかる通夜の人

扛げ兼て妹が手細し鮓の石

小賢しき犬吠付や更衣

七筋を心利きたる鵜匠

漢方や柑子花さく門構

若葉して半簾の雨に臥したる

世はいづれ棕櫚の花さへ穂に出でつ

立て懸て 這ひけり草箒

若葉して縁切榎切られたる

でで虫の角ふり立てて井戸の端

溜池に蛙闘ふ卯月かな

虚無僧に犬吠えかかる桐の花

や思ひがけなき垣根より

若竹や名も知らぬ人の墓の傍

若竹の夕に入て動きけり

鞭鳴す馬車の埃や麦の秋

渡らんとして谷に橋なし閑古鳥

折り添て文にも書かず杜若

八重にして芥子の赤きぞ恨みなる

傘さして後向なり杜若

蘭湯に浴すと書て詩人なり

すすめたるを皆迄参りたり

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