和歌と俳句

夏目漱石

鮓桶の乾かで臭し蝸牛

蝙蝠や賊の酒呑む古館

不出来なる と申しおこすなる

五月雨の壁落しけり枕元

馬の 牛の蝿来る宿屋かな

蚊にあけて口許りなり蟇の面

鳴きもせでぐさと刺す 田原坂

藪近し椽の下より

寐苦しき門を夜すがら水鶏かな

若葉して手のひらほどの山の寺

菜種打つ向ひ合せや夫婦同志

菊池路や麦を刈るなる旧四月

麦を刈るあとを便りに燕かな

さみだれの弓張らんとすればくるひたる

大手より源氏寄せたり青嵐

水涸れて城将降る雲の峰

槽底に魚あり沈む心太

水打て床几を両つ并べけり

土用にして灸を据うべき頭痛あり

楽にふけて短き夜なり公使館

音もせで水流れけり木下闇

徘徊すあるをもて朝な夕な

寂として椽に鋏と牡丹

白蓮にいやしからざる朱欄哉

思ひ切つて五分に刈りたるかな