和歌と俳句

椎若葉

千樫
わが家はいまだは見えねいちじろく裏の椎森若葉せる見ゆ

千樫
ふるさとに帰れるその夜わが庭の椎の若葉に月おし照れり

左千夫
北裏の二階に迫る椎若葉はゆる若葉を風が揺るかも

左千夫
五百枝さす椎おしみらの若やぐや若葉の光り家もあかるく

千樫
背戸の森椎の若葉にあさ日てりひとり悲しも来し方おもへば

千樫
椎わか葉にほひ光れりかにかくにわれ故郷を去るべかりけり

牧水
椎の若葉や、崎の港の 小学の 女教師が引く ハンドオルガン

左千夫
椎森の若葉円かに日に匂ひ往来の人等みな楽しかり

左千夫
稍遠く椎の若葉の森見れば幸運とこしへにそこにあるらし

雨霧らふ若葉の中の椎若葉 亜浪

白秋
椎若葉 けむる月夜の うつつにも 燈とぼす窗か 珠數かがりつつ

白秋
赤松の 木群しづけき ここの宮 椎の若葉の 時いたりけり

独り見つつ椎の若葉をうべなへり 波郷

椎の若葉もおもひでのボールをとばす 山頭火

椎若葉坂にもあへぎ訪ね来しか 波郷

椎若葉一重瞼を母系とし 波郷

椎若葉わが大足をかなしむ日 波郷

椎若葉土焼いてゐる山の平 占魚

旅二人靴ぼこり椎若葉の下 綾子

椎若葉少女子も吹きしぼらるる 波郷