北原白秋

33 34 35 36 37 38 39 40 41 42

わが庭の 薔薇のとぼそ 春過ぎて くれなゐ久し 夏はくるしき

山吹の 花ちりがたと なりぬれば 蘇枋は染めぬ 紫の枝

家移ると 今あらためて 見るものに この家垣の 椎よ芽楓

咲く花は 後住む人の 樂しみと のこしたらなむ その草花は

雪つもる 通草の棚は 飯食むと 朝夜よろしみ 茶の間より見し

ここに聴く 遠き蛙の 幼なごゑ ころころと聴けば ころころときこゆ

若葉樫 しきりかがよひ 午ちかし 明治神宮の 春蝉のこゑ

御庇の 檜皮の黒み 夏まけて 映る若葉の 清にまばゆき

赤松の 木群しづけき ここの宮 椎の若葉の 時いたりけり

夏向ふ 五百枝嚴橿 葉廣橿 日にきらきらし 若葉嚴橿

雨は今朝 ふりながしけむ 若葉橿や 神苑の森は 塵もとどめず

ここの宮 光る若葉の 葉ごもり 一羽雉子の 聲ひらくなり

明治神宮 西参道の 晝闌けて 清きひと照りの 風ぞ過ぎたる

晝の林泉 光る若葉の 靄ごめに まじりて黝き 松のしづけさ

風透る 廣き芝生の 參り路は 玉敷きならし 目もすまの照り

神の苑 木立おもての 眞日照りを 歩く雉子の 一羽たふとさ

眼は向ふ 芝生なだりの 日のおもて 寶物殿に うかぶ白雲

ほのぼのと 眞晝はこもる 靄ゆゑに 一木のしろき 花のめでたさ

お池には いづくにも見る 影ながら 亀の子が搖る 水際さざなみ

和歌と俳句