北原白秋

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代々木練兵場 朗らけく明し 若葉どき 上下八方に とどろく物音

代々木の空 若葉盛りあがる 色見れば 青あり緑あり 時闌くるあり

赤土に 伏せのかまへの 兵ふたり 照りあきらけし 見ざるべからず

砲車隊 駛る夏野の 日のさかり 遠ざかり遠ざかり 立つ後埃

朝眼には 若木櫻の 葉ざくらの 梢葉の紅の 裏そよぎつつ

夏向ふ 霞にあかる 若葉木の 木群のみどり 盛り層むなり

田の遠は 若葉かがやく 日ざかりを 往還の埃 吹きつけはしれ

桐の花 ふふむこなたの 日おもては 蛙が鳴きて 水田さざなみ

白南風の 光葉の野薔薇 過ぎにけり かはずのこゑも 田にしめりつつ

大葉栗 夏はこずゑの 房花の さやかにあかり 田毎代掻く

水口の えごのひと木の 群花は 田を植ゑそめて いよよすがしさ

刈りしほと 麥は刈られし こちごちを このごろしろし 馬鈴薯の花

熟麥の 穂麥刈りとる 畝間には 早やつやつやし 茄子の若苗

茄子畑は 穂のみ刈りそぐ 立莖の 柵明し 麥のしがらみ

月の夜は いとどかぐろき 家の森を 田には狭霧の 引きわたるめり

狭霧立つ 月の夜さりは 村方の 野よ香ばしく 麥こがし熬る

月魄の しろき夜さりの 離れ雲 麥たたく音の 村にさびしさ

朝なさな 我が門いでて 見るものに しみじみとよし 植ゑし水の田

竹山の うすきみどりの 朝じめり 水の田ちかく 見るがすずしさ

竹若葉 みどりこまかき 山方の ひといろのなびき 朝目にも見よ

わせ竹の 若葉に霧らふ 夏がすみ 何か日中の 音闌くるなり

和歌と俳句