和歌と俳句

大野林火

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顔洗へば粗髯につく山清水

汗のつぶやき人一人さへ救へざる

車窓左右月見草にて降り出せり

紫陽花や旅立つまえの稿ひとつ

笛の音の長梅雨の家洩るるなり

合歓初花水明りしるき羞ぢらひに

ゆるやかに僧のつかへる黒扇子

炎天に昼月無用の光り加へ

今年竹雲湧けどまだ峯なさず

朝日の渦けぶりやまずよ今年竹

茅花流し遠白浪の音伝へ

遊ぶ子を分けゆき熱し梅雨夕焼

白日に紙魚を払ひてかなしめり

雨蛙不思議に酒の飲める夜や

降り出してけぶりて栗の花乱す

道流れ山の雨なり夕端居

水打つて声谺する五月かな

曇り解き青すぐひろぐ五月野は

短夜の痛みの中のねむりかな

薬また変れり石榴咲きつづけ

注射百本梅雨はまだまだ明けぬかな

夏わらび雨の最中に届きけり

昼寝覚雲を眼に入れまた眠る

鮎山女膳に渓流あるごとし

僧房の障子あけあり梅雨月夜