滴りの一滴にして谺せり
大箸風鈴四本の翳に鳴りだせり
萍の走る川見て越に入る
たどりきし海の辺山の辺夕端居
棕梠の花鬱と寸伸びゐたらずや
わが門も祭の夜の人通り
黒と白すでにくきやか子燕は
命ありて立つ長城の薫風に
驢馬鳴いて北京郊外昼寝どき
朱夏といふ壮んなる語や紫禁城
味爽の闇あをあをと今年竹
国遠し合歓咲く道の郷に似て
日焼顔働く艶を加えたる
老人の息詰まらする油照
蕗味噌に箸染めて聞く夜の雨
垂らし読む巻紙風も南から
平凡を噛みしめてゐる端居かな
竹落葉して古道なほ古く
一生を見し思ひして虹を去る
月見草潮もかなひて舟出人
海に聳ち海の宴の雲の峰
残されてうすくらがりに昼寝人
この椅子の三日の涼に生き延びし
五月光白粥の前畏まる
柏餅頼みて妻を帰しけり