和歌と俳句

雨蛙

火をうてば軒に啼あふ雨蛙 丈草

雨蛙まてよ木末の五月闇 支考

晶子
雨がへるてまりの花のかたまりの下に啼くなるすずしき夕

茂吉
宵あさくひとり籠ればうらがなし雨蛙ひとつかいかいと鳴くも

雨蛙樫のそよぎに雲忙し 蛇笏

茂吉
あまがへる 鳴きこそいづれ 照りとほる 五月の小野の きなかより

茂吉
五月野の 草のなみだち しづまりて 光照りしが あまがへる鳴く

茂吉
命ある ものの悲しき 眞晝間の 五月の草に 雨蛙鳴く

一つ樹の一つところに雨がへる 石鼎

日かげるや谷ひろくよぶ雨蛙 石鼎

雨蛙カンナの花に鳴きにけり 石鼎

雨蛙青梅街道曇りけり 喜舟

雨蛙いただきの葉に居りにけり 櫻坡子

雨蛙とびて細枝にかかりけり 蛇笏

雨蛙こゑ高かりし数寄屋かな 青畝

一つ木の三ところに鳴く雨蛙 石鼎

橋立は雨にかくれて雨蛙 花蓑

雨蛙啼くや一面桑畠 喜舟

からたちの刺を啼きけり雨蛙 喜舟

雨蛙鳴き競ふなり梭の音 秋櫻子

掌にのせて冷たきものや雨蛙 鴻村

あちらで鳴くよりこちらでも鳴く夜の雨蛙 山頭火

みささぎの曇りたまへり雨蛙 草城

幔幕に鳴いてやめたる雨蛙 汀女

山の子のいつもひとりで雨蛙 汀女

雨蛙黒き仏の宙に鳴く 誓子

雨蛙鶴溜駅降り出すか 波郷

午後の日に暈描かむと雨蛙 秋櫻子

雨蛙緯度北よりの空へ鳴く 草田男

まこと裸の声みちのくの雨蛙 草田男

雨蛙見ゆるがごとく鳴きにけり 草城

雨蛙呼び陽明門に雨が降る 青邨

曇り来て諸佛面伏す雨蛙 秋櫻子

雨蛙牧舎のやどり風呂湧きて 秋櫻子

多佳子亡しうつしみをなく雨蛙 不死男

尿前のふるみち失せぬ雨蛙 秋櫻子

雨蛙大寺をまもる僧二人 秋櫻子

葛城の雲のうながす雨蛙 秋櫻子

雨蛙不思議に酒の飲める夜や 林火

雨蛙告ぐるな邪宗念持佛 秋櫻子

雨蛙めんどうくさき余生かな 耕衣