和歌と俳句

秋元不死男

蛇苺石垣冷す墓の影

や糞りつつあるく寺の鶏

軍港に油滴の五彩梅雨の海

竹林の遍く濡れて祭笛

ででむしや高音細音に日本の笛

睡蓮や目立の音に甕坐る

墓地赤し落ちて漏斗の花石榴

本還る挟まつて蚊の縞押葉

青空や蚤をつぶして寂かな爪

病葉や銃後てふ語の仮睡めく

街に出てわしづかむ農歌人

峰雲や泣けば痛げに蒙古斑

夏冷えの松や末期の眼が大事

棕梠の花猫糞る顔のハート型

太宰忌の細江に落ちつる実梅かな

雄鶏の仰ぎ仰ぎて泉飲む

黒南風に切傷しみる運河べり

ショパン弾く友の十指へ夏棕櫚影

早乙女に水きて青い職場和す

黒蝶の弔衣高飛ぶ山上湖

一碧の湖甘くするキャンプの餐

滝の音や砂の靨の蟻地獄

旱星食器を鳴らす犬と石