怠けては墓場をあるく韮の花
大切に西日まるめて牛冷す
晩節やポッと藻の咲く硝子鉢
夏痩せて目玉の錆びる泥運河
孤島行甲板日覆に赤目の蠅
航一路海にふくらむ捕虫網
ランプ涼し坐せばこぼるる膝の砂
夏島の燈台守に小さき書架
乳房灼いて漁婦一生の影嘆く
羽根ひろく岩礁の鵜の黒十字
飛島を去る蝉声をみな返し
てのひらの筋も日焼けて島を去る
ロダン観る香水に鼻こはされて
赤帯の遠き田植の水故郷
葭切や人はレールの砂利を搗く
青鬼灯枯らす一輪挿の水
白髪殖ゆうすうすと蚊の水に死し
家にきて新聞紙踏む海の蟹
塩壺へ鍵の穴より西日の矢
抜けし歯を捨てに泉を探しに行く
玉蟲や日熱漂ふ墓一基
寝不足や淵に屯すみづすまし
氷挽き鋸透ける餓鬼忌かな
谷ゆけば硫黄こぼるる花卯木
老鶯の雨後の深啼き硫黄谷