和歌と俳句

秋元不死男

怠けては墓場をあるく韮の花

大切に西日まるめて牛冷す

晩節やポッと藻の咲く硝子鉢

夏痩せて目玉の錆びる泥運河

孤島行甲板日覆に赤目の蠅

航一路海にふくらむ捕虫網

ランプ涼し坐せばこぼるる膝の砂

夏島の燈台守に小さき書架

乳房灼いて漁婦一生の影嘆く

羽根ひろく岩礁の鵜の黒十字

飛島を去る蝉声をみな返し

てのひらの筋も日焼けて島を去る

ロダン観る香水に鼻こはされて

赤帯の遠き田植の水故郷

葭切や人はレールの砂利を搗く

青鬼灯枯らす一輪挿の水

白髪殖ゆうすうすとの水に死し

家にきて新聞紙踏む海の

塩壺へ鍵の穴より西日の矢

抜けし歯を捨てに泉を探しに行く

玉蟲や日熱漂ふ墓一基

寝不足や淵に屯すみづすまし

氷挽き鋸透ける餓鬼忌かな

谷ゆけば硫黄こぼるる花卯木

老鶯の雨後の深啼き硫黄谷