佛像を蟻の一匹出没す
愛し得て立つや木移る蝉の声
家に死す蟻の総身黒色に
土を出て直ぐ松風へ蟻のぼる
中心に仏の微笑梅雨かこむ
絶壁に蠅神神し海が鳴る
西方に師のをり栗の花くぐる
税重し向日葵の影鉄管に
炎天充つ青年と影を同じうし
地におちてひびきいちどのわくらばよ
白樺派老いぬ路傍に夏木なく
炎昼へ製氷の角をどり出る
炎天へ孤児の孤影を引つぱり出す
なめくぢら師恩に泣きしことのなし
五月そよ風病臥の肘へ薪割る音
河童忌の枝抱いて寝る街の蛇
都電路に剛き夏草馘れず
街道に井戸の跼める芥子の花
向日葵の金の雨だれ終りしよ
枇杷の種赤く吐き出す基地の階
甘きもの蟻にふらして基地忘る
姉妹のしづまりかへる田掻かな
縛されて念力光る兜蟲
稿急ぐ落葉色して訪る蛾
片蔭へ沈む祭の笛の声